令和5年度の税制改正により、電子帳簿保存法の内容が一部改正されました。今回の改正では、企業の対応の遅れなどを背景に、「電子取引データの保存方法の見直し」「優良電子帳簿に係る過少申告加算税の特例適用要件の緩和」「スキャナ保存の要件緩和」がなされました。これらの改正のポイントと企業が対応すべきこと、そして改正の真の目的について、電子帳簿保存法に詳しい国税OBの税理士・袖山喜久造さんに解説いただきました。
袖山喜久造(そでやま きくぞう)さん
税理士/SKJ総合税理士事務所所長
中央大学商学部会計学科卒業。東京国税局に国税専門官として採用。東京国税局調査部、国税庁調査課を含め、大企業の法人税調査を15年間担当。2009年から情報技術専門官として電子帳簿保存法を担当し、申請書審査、研修、企業の指導相談に携わる。2012年に退職後、同年SKJ総合税理士事務所を開業。税務コンサルティングのほか、企業の文書電子化コンサルティングを行っている。著書に「<電子帳簿保存法対応>電子化実践マニュアル(令和4年度改正版)」「電子インボイス 業務デジタル化のポイント」など。
電子帳簿保存法改正の目的
令和5年度電子帳簿保存法改正の概要
1. デジタル化を阻害しない電子取引データの保存方法の見直し
①システム対応が間に合わなかった事業者への対応
②検索機能の確保要件の見直し
【まとめ】①②を満たした電子取引データ保存システムを構築するには?
2. 優良電子帳簿に係る過少申告加算税の軽減措置の対象となる帳簿範囲の見直し
【まとめ】なぜ、優良電子帳簿を作成する必要があるのか?
3. スキャナ保存制度の要件緩和
①入力時情報の確認
②入力者等の確認
③帳簿との相互関連性
【まとめ】これからのスキャナ保存に対応するためには?
経理業務DXを見据えて─電子帳簿保存法への対応で必要なこと
1. クラウドサービス選定のポイント
①ベンダーロックイン問題への懸念払拭
②「事業継続性」「データ移行のルール」「セキュリティ」を確認
2. 電子帳簿保存法への対応を継続するために─電帳法改正の本質
電子帳簿保存法とは、税法上で保存等が必要とされる「帳簿」や「領収書・請求書・決算書など」の国税関係書類を、電子データで保存する際の要件等を定めた法律です。
政府が電子化政策を進める目的には、デジタルデータを活用することでの業務効率や生産性の向上があります。このような中で令和3年度(2021年度)の税制改正で、電子帳簿保存法が抜本的に改正され、電子化を促進する後押しとなったのです。
令和3年度の改正についてはこちら
さらに、令和5年度(2023年度)の改正で、「デジタル化を阻害しない電子取引データの保存方法の見直し」「優良電子帳簿に係る過少申告加算税の特例適用要件の緩和」「国税関係書類のスキャナ保存制度の要件緩和」がなされました。本改正は、2024年(令和6年)1月1日以後に施行されることとなります。
今回の改正のポイントとして、大きく以下の3つがあげられます。
令和3年度の電帳法の改正では、要件緩和や電子取引データの保存に関する猶予措置が設けられたりしています。今回の改正は、会計・経理業務の電子化に当たり実務を行う上で運用しやすい改正がされているといえます。ただし、大切なことは、電帳法の要件を遵守しながら、業務をデジタル化シフトし業務の進め方を見直すことです。その際に考慮すべきことなども合わせて、それぞれのポイントを紹介します。
令和6年1月1日以降も、「相当の理由」がある場合に限り電子取引データの書面による保存を容認
「取引年月日」「金額」「取引先」が検索可能な状態でデータを管理する
令和3年度の改正で、電子取引を行った場合に、当該データを書面(紙)に出力して保存する方法が廃止され、必ずデータを保存することとなりました。ただ、この改正に対応できる期間が実質9カ月ほどしかなかったため、令和4年度の改正で「データで保存できないことについて、やむを得ない事情があると認められた場合には、引き続き書面での保存が認められる」という宥恕(ゆうじょ)措置が設けられました。
しかし、国としてはデジタル化を推進する一方で、書面での保存を認めているのでは、矛盾が生じます。そこで、宥恕措置は令和5年12月31日をもって廃止し、デジタル化を阻害しない電子取引データの保存方法の見直しが行われたのです。
見直しの概要
①システム対応が間に合わなかった事業者への対応
②検索機能の確保要件の見直し
①システム対応が間に合わなかった事業者への対応
多くの方が気になるのが、「『相当な理由』とは何か?」ということだと思います。これに関しては、国税庁が2023年6月30日に公表した電子帳簿保存法一問一答(電子取引関係)にて、「システム等や社内のワークフローの整備が間に合わないといった、自己の責めに帰さないとは言い難いような事情も含め、要件に従って電磁的記録の保存を行うための環境が整っていない事情がある場合」と見解が示されました。例えばシステムを導入するための予算がない、法令対応するための人員が足りないといった事情も理由になり得るということです。
ただし、経営者の信条のみに基づく理由で電子保存等をしない場合は、新たな猶予措置の適用がされないという通達も出されています。「やりたくない」は理由にならないということです。
つまり、法令対応が完了するまで、当面の間は紙とデータの両方を保存することで対応できるけれども、デジタル化に対応した業務体制を目指すという方向性には変わりがありません。
②検索機能の確保要件の見直し
まず、なぜ検索機能の要件が定められているかというと、「税務調査の際に、調査官が自分で帳簿や書類、電子取引データを検索できるようにするため」です。そのため、もともとは厳しい要件が定められていましたが、現在は「取引年月日」「金額」「取引先」の3項目を満たすことが必要とされています。
例えば、請求書や納品書といった書類ごとに管理しているのであれば、その書類ごとに1課税期間、ないしは合理的な期間に区切って、「取引年月日」「金額」「取引先」が検索できるようにしておくことが求められています。
そして、この要件を満たせないのであれば、調査員が必要な資料の「ダウンロードの求め」を行った場合に、データを提示・提出できるようにしておくことが必要だということです。
例えば、「取引金額100万円以上の請求書をすべて出してください」「○年○月の○○社への納品書をすべて出してください」など、さまざまな「求め」が想定されます。こういった求めに応じるためには、書面であってもデータであっても整理保存されていることが前提です。
税務調査を前提にした要件が出されているため、税務調査対策に気を取られがちですが、重要なことは、そもそも改ざんのない正しい会計処理がされているのか、誰がいつ承認したのかというプロセスが透明化されているのかということ。業務管理をデータで行えば、そういったプロセスに間違いや不正があったときに発見することができます。つまり、自社のガバナンス向上が本来の目的なのです。
人が介在する処理には、必ず間違いや不正が発生します。例えば、データでもらった請求書を出力して、手作業で処理するというのは、ミスの原因になりますし、業務効率も下がります。ですから、まずは人が介在せずに間違いなく処理ができるような体制を作ること。そのためには、間違えたデータを処理しないよう、CSVデータが添付できるなど、データ変換やデータ移行がスムーズにできるシステムを活用することです。
検索要件を確保したドキュメント管理を行うなら、企業間取引をまるごとペーパーレス化して一元管理できるプラットフォーム「DocYou」がおすすめです。
メールに請求書などのPDFデータを添付している場合や、メール本文に取引内容を記載している場合なども電子化してデータ保存が可能です。
CSVデータなども改ざんできない形で添付できるため、システム連携もスムーズ。電帳法の保存要件を満たした状態で長期保管が可能です。
優良電子帳簿に係る過少申告加算税の軽減措置の対象となる帳簿の範囲から、「給与台帳」「現金出納帳」「当座預金出納帳」などを除外
追徴課税が発生した際のメリットであるため、そもそも追徴課税が発生しない真実性の高い帳簿作成を目指す
優良電子帳簿に係る過少申告加算税の軽減措置とは、「モニター・説明書等を備え付ける」などの電子帳簿として保存するための要件に加えて、①訂正削除履歴の保存、②帳簿間の相互関連性、③取引年月日・金額・取引先による検索機能をすべて備えて保存している「優良電子帳簿」を作成し保存している場合には、その電子帳簿に関連する過少申告が判明しても、過少申告加算税の税率が5%軽減されるという措置です(事前に所轄税務署に届出が必要、更に税務調査で重加算税対象がある場合には過少申告加算税の軽減適用はなし)。
これまでは、軽減措置の適用を受けるための優良電子帳簿の対象となる帳簿が、税法で保存が必要な帳簿「すべて」でした。ところが、特に中小企業においては、これはかなり高いハードルです。そこで、対象となる帳簿の範囲が狭められ、「給与台帳」「現金出納帳」「当座預金出納帳」などが除外されました。とはいえ、実際にはまだまだ対応できる企業は少ないのが現状です。
また、この制度を利用するには事前に届出が必要なのですが、あくまで届出をしているだけであって、優良帳簿とみなされるかどうかは、税務調査が行われるまでわからないのです。対応しているつもりでも、実際に税務調査が入ったときに、「訂正削除の履歴が残っていないので、適用されません」という可能性があることも念頭においておかなければいけません。
この制度の目的は、過少申告加算税を軽減するというインセンティブを与えることによって、優良電子帳簿の利用促進を図るということ。つまり、真実性の高い帳簿を作成し、信用性の高い決算書に基づいて税務申告を行う事業者を増やしたいということです。
しかし、実際には優良電子帳簿とみなされる要件が厳しく、税務調査が入るまで適用されるかどうかはわかりません。
ですから、過少申告加算税の減額を目指すより、そもそも過少申告加算税が課せられないような企業体質にすることが大切です。
実効性のない「入力時情報の確認」「入力者等の確認」の要件が廃止
見積書や発注書など仕訳に直結しない書類は、相互関連性の確保が不要に
スキャナ保存に関しては、要件通り入力や保存ができていれば書類原本を廃棄できることから、これまでは非常に厳しい要件が定められていました。しかし、近年の規制緩和により徐々に要件が廃止されおり、今回の改正においても実効性のない以下の保存要件が廃止されました。
廃止された保存要件および変更点
①入力時情報の確認:スキャナで読み取った際の解像度・階調・大きさに関する情報の保存
②入力者等の確認:スキャナ保存時に記録事項の入力を⾏う者またはその者を直接監督する者に関する情報
③帳簿との相互関連性:スキャナで読み取った際に、帳簿との関連性を確認できるようにしておく必要がある国税関係書類が、「重要書類(契約書・領収書・納品書など、資金や物の流れに直結・連動する書類)」に限定
①入力時情報の確認
入力時情報とは、スキャンする際の解像度や階調情報の他書類の大きさなどの情報を確認することで適正な入力機器を使用して入力されているかを確認する要件でしたが、スマートフォンで撮影すると、書類の大きさなどはわかりません。重要なのは、大きさより内容がわかることだという議論もあり、実効性のない要件だとされました。
入力時情報を確認する要件は廃止されましたが入力機器の要件は変わりません。解像度200dpi以上でカラーでスキャンしたとしても4ptの文字が判読できるように入力することは必要となります。
②入力者等の確認
入力者等の確認は、誰が入力して保存したのかという責任所在を明確にするために設けられた要件でしたが、これも実効性がないということで廃止されました。
例えば、データで業務処理をする場合、ワークフローで第一承認者、第二承認者が誰かといった経費計上等の承認プロセスがわかります。誰が入力したのかよりも、そういった情報のほうが重要だということです。
③帳簿との相互関連性
書類というのは、結果的に何らかの仕訳情報につながりますが、仕訳に直接結びつく書類は領収書か請求書、納品書がほとんどです。見積書や発注書などは、発行した後に内容が変更になる可能性もあり、仕訳が発生してから相互関連性を測ることは非常に難しいのです。そのため、見積書や発注書といった一般書類は、相互関連性の確保は不要とされました。
実効性のない要件は廃止されましたが、真実性の確保のため、認定タイムスタンプの付与・検証機能が必要です(第三者が運営し、ネットワーク上で現在時刻を配信するためのサーバと同期していて、スキャンデータが保存された時刻が記録されるクラウドサービスを利用するなど、客観的にそのデータ保存の正確性を担保することができる場合には、タイムスタンプは不要)。
なぜタイムスタンプが必要かというと、その時点でそのデータがあったという時刻情報の証明ができることが、改ざんされていないという証明につながるためです。
これまでは、タイムスタンプを利用するにはコストがネックになっていました。しかし、近年増加しているクラウド型のサービスでは、タイムスタンプ代が保守料金に含まれているものもありますし、公共時刻情報で保存時刻が確認できるためタイムスタンプが不要となる仕組みを採用しているものもあります。また、ユーザー側でデータの改ざんや削除ができないシステムであれば、真実性が担保されます。
こういったシステムを導入することが、これからのスキャナ保存に対応する際のポイントとなるでしょう。
企業間取引プラットフォーム「DocYou」は、訂正削除ができないシステムで、書類パターンの設定によってはタイムスタンプを付与することも可能です。
近年、電帳法に対応したさまざまなクラウドサービスが登場しています。先ほど述べたように、電帳法の要件を満たした電子取引データやスキャンデータの保存、真実性の担保といった観点からも、クラウドサービスの導入は効果的です。
しかし、「どのサービスを選んだら良いかわからない」という方も多いと思いますので、いくつかポイントを紹介します。
JIIMAにより、データ移行時のガイドラインが示され、ベンダーロックイン問題への懸念が払拭された
システムを選ぶ際には、提供会社の「事業継続性」「データ移行のルール」「セキュリティ」を確認することが重要
①ベンダーロックイン問題への懸念払拭
クラウドサービスが普及したことで利便性が向上した一方で、大きなネックとなっていたのが、「ベンダーロックインの問題」です。ベンダーロックインとは、業務システムが特定のベンダーに依存することで、他社サービスへの切り替えが難しくなったり、ベンダー側での仕様変更やサービス停止が起こったりする問題です。例えば、システムを導入したものの、自社に合わなかったため他社に乗り換えようとしたが、データが移行できないといったケースです。
この問題に対して国税庁は、2023年6月30日に公表した電子帳簿保存法一問一答(スキャナ保存関係)にて、「公益社団法人日本文書情報マネジメント協会(JIIMA)が定めた『電帳法スキャナ保存におけるデータポータビリティガイドライン(第1.0版)』に沿ってデータを移行するように」という見解を示しました。
これにより、データの真実性確保を実施した上で移行するためのガイドラインが設けられたことになり、ベンダーロックイン問題に関してはある程度懸念が払拭されました。
②「事業継続性」「データ移行のルール」「セキュリティ」を確認
とはいえ、システム変更には大きな手間とコストがかかりますし、ベンダーがサービスを停止する可能性はなくなりません。そのため、システムを選ぶ際には、ベンダーの事業継続性をよく見極め、データ受け渡し時のルールが設けられているかなどを確認することが重要です。
そしてもちろん、セキュリティも大きなチェックポイントです。コストや利便性を重視するあまりセキュリティの甘いシステムを導入してしまうと、万が一ランサムウェアのターゲットになったりした場合に、甚大なリスクが発生します。
「事業継続性」「データ移行のルール」「セキュリティ」、そして、デジタル化を阻害しない電子取引データの保存方法の見直しで述べたように、互換性などの「データの使いやすさ」を考慮して、システム選定することをおすすめします。
企業間取引プラットフォーム「DocYou」は、電子契約・電子取引・書類配信・文書管理を電帳法の要件を満たした上で一元管理することが可能です。また、データの暗号化などの処置を施しており、ISO27001(ISMS) に加えて、ISO27017(クラウドサービスセキュリティ)も取得していますので、安心してご利用いただけます。
取引先が送信元となる場合であっても、取引先が費用負担することなく利用できるプランがあるため、業種・業界・規模を問わず、幅広い分野でご活用いただけます。
電帳法の要件を満たすことは必要だが、そこがゴールではない
透明性があり、公正・適正な会計処理がなされる体制を作ることが、一番の目的
国がデジタル化を進める背景には、データによって業務処理や業務管理を行うことで、適正に業務効率や生産性を向上させるという目的があります。そして、もう一つ大事なことは、電帳法で電子取引やスキャナ保存の要件を規定することで、透明性があり、公正・適正な会計処理がなされる体制を作ることができるということです。
つまり、電帳法でさまざまな要件が定められてはいるものの、その要件を満たすことがゴールではないのです。むしろ、この要件を満たすことだけを追い求めると、手間がかかって業務効率は下がります。
目指すべきは、きちんとした取引書類にもとづいて会計処理を行い、正しい帳簿をつくり、信頼性のある決算書を作成すること。そのプロセスをどう構築するかが重要で、電帳法の要件は、その過程で必要になる規定に過ぎません。
単に要件を満たしたシステムを導入すれば、電帳法に対応できるというわけではないのです。この改正への対応が、これまでの業務フローを見直すきっかけとなり、ガバナンスのとれた体制づくりをめざす入口になることを願っています。
※本記事は2023/9時点の情報です。