2020年以降、新型コロナウイルス感染症の拡大の影響で企業のDX化が加速。各社でテレワークの導入が進み、本格的に「ペーパーレス化」に向けて動き出す企業も増えています。紙を電子化することで、業務効率の向上、コスト削減、ITリテラシー向上など多くのメリットがありそうです。それでは実際にどのようにペーパーレス化を進めていけばよいのでしょうか。
テレワークの労務や法務、企業のデジタル化に詳しい弁護士の足立昌聰さんに伺いました。
足立昌聰(あだち まさとし)さん
弁護士/弁理士/情報処理安全確保支援士
東京大学工学部システム創成学科卒業、同大学大学学院法学政治学研究科修了。インハウスハブ東京法律事務所代表弁護士(第一東京弁護士会)、弁理士、情報処理安全確保支援士。株式会社JMDC執行役員・最高データ保護責任者。著書に『Q&Aでわかる テレワークの労務・法務・情報セキュリティ』(技術評論社)など。
Twitter:https://twitter.com/MasatoshiAdachi
ペーパーレス化とは?
多くの企業がペーパーレス化を推進している社会的背景
ペーパーレス化のメリット
① 業務効率化
② コスト削減・保管スペースの確保
③ BCP対策(災害等での復旧対策)として有効
④ 書類の改ざん防止
ペーパーレス化のデメリット
① ソフト・ハードなど導入コストがかかる
② 社員の理解、協力を得るための社内調整が大変
社内でペーパーレス化を推進するためのポイント
① 社員の意識改革
② 社内文書のペーパーレス化の範囲を決める
③ 契約書や請求書など社外発注書類の電子化を検討
④ 社内規程の改変、マニュアルの作成
ペーパーレス化を機に業務フロー全体の見直しを
ペーパーレス化とは、紙の文書を電子化し、パソコンなどのデジタルデバイスで閲覧、管理できるようにすることです。社内で取り扱われる文書は大きく分けると、「報告証書」と「処分証書」の2種類あります。
●報告証書…帳票、議事録、領収書といった事実関係を記録する文書。
●処分証書…契約書、請求書といった意思表示などの法律行為を行ったことを示すための文書。
「報告証書」は書類の種類や全体的なボリュームが多いため、ペーパーレス化により、大幅な紙の削減が可能です。一方、「処分証書」は全体量が少ないものの、ペーパーレス化により書類のやりとりや押印を電子化することで、相手先との意思疎通を早める効果があります。
社内の紙の文書を全体的に見直すことで、コスト削減、業務効率化など、あらゆる方面でのメリットを享受できそうです。
新型コロナウイルス感染症拡大の影響で、自宅やサテライトオフィスなどでの業務を推進する企業が増加。そのため社内以外でも電子文書を作成、閲覧できるように多くの企業で改革が進みました。
2020年12月に実施された内閣府の調査では、テレワーク経験者の約4割がテレワーク拡大のためには、「書類のやりとりを電子化、ペーパーレス化」することが必要であると回答。社員がスムーズに業務を行うためにも、ペーパーレス化は喫緊の課題となりました。
国際的にみると、2016年にEU(ヨーロッパ連合)で、電子取引に関する法的枠組みを記した「eIDAS規則(Electronic Identification and Trust Services Regulation)」が施行されたことも影響しています。ここにはEU域内で公平で安全な電子取引ができるように、電子署名、タイムスタンプ(時刻証明)等のトラストサービス(検証可能な信頼性を提供するサービス)に関する一定の基準が設けられています。すでに実務レベルで文書の電子化が進んでいた米国に続き、EUでも法制化が進んだことで、欧米企業と取引がある日本国内の企業でも、電子取引を取り入れるきっかけとなったのです。
また、日本政府も2000年代初期からペーパーレス化へと動き出していましたが、コロナ禍でデジタル化に向けた動きが急速に進みました。2020年には内閣府、法務省、経済産業省が連名で「電子署名法」における紙による契約書の作成や押印が契約上必須ではない見解を明確化しました。
(参考)契約における押印の見直し:https://www.meti.go.jp/covid-19/ouin.html
電子取引の帳票やデータをどう保存するかを定めた「電子帳簿保存法」は2021年度に改正が議決され、2022年1月1日以降は、今まで電子化の妨げとなっていた電帳法承認制度の廃止や国税関係書類のスキャナ保存の要件などが緩和されます。今後はよりスムーズに企業の電子化やペーパーレス化が推進できるようになるのです。
Q&Aでわかる電子契約・電子取引 第1回「電子契約・電子取引とは?」
[国税OB税理士監修]令和3年度電子帳簿保存法改正のポイント
次に具体的なメリットをみていきましょう。
紙での保管は、ファイリングなどの整理、書類の破棄などが大変ですし、経年劣化の問題もありますが、データ上で管理していれば、書類の所在がわからなくなっても、ファイル名などで簡単に検索可能です。また、資料の整理や長期間の保管も簡単です。社内のサーバーやクラウド上で管理すれば、他の社員との情報共有ができ、同時に作業することも可能になります。電子契約システムを導入すれば、押印するための出社も不要となるなど、物理的な拘束時間が短くなります。その分、余剰時間ができ、他の業務を進めることもできます。
書類を紙ではなく、データ上で管理すれば、紙代や印刷代、郵送費などあらゆる面でコスト削減を期待できます。社員の作業負担を軽減できるため、人件費も大幅に削減可能です。また、紙を保管するための倉庫や、保管用のファイルやラック、キャビネットといった備品も不要になり、倉庫の維持管理費の削減やスペースの有効活用にもつながります。
BCP(Business Continuity Plan:事業継続計画)対策とは、感染症や自然災害、テロなど緊急事態が起きた際にも、事業を早期復旧・継続するための計画のことです。近年多発する自然災害や新型コロナウイルス感染症の影響で、改めて見直しを図っている企業も多いようです。水害や火災による資料の消失リスク、盗難、資料運搬中の事故などからあらゆるデータを守るためには、デジタルメディアや遠隔地にあるサーバーなどへのバックアップは必須です。新型コロナウイルス感染症終息後もテレワークによる働き方が普通になると言われるニューノーマル時代においても、平時同様に業務を継続するには普段からデータで資料を管理、活用するフローを作っておくことが重要となります。
以前から、紙への押印やサインについては、裁判の場でも「第三者が勝手に行ったものではないことの検証可能性が低い」ということが常識となっていました。三文判(安価な印鑑)であれば文房具店でも買えますし、印鑑が引き出しに入っていれば誰でも押せてしまいます。電子契約システムの電子署名などを利用すれば、認証局や第三者機関で本人確認ができ、誰が、いつ、何に電子署名をしたかということが一目瞭然です。印鑑を使うより、改ざんされにくく、より安全に契約を行うことが可能なのです。また、コロナ禍におけるテレワーク推進により、押印するための出社も問題視されています。これを機に、書類や契約方法の電子化を検討してみるのもいいでしょう。
ペーパーレス化のデメリットについては、以下のような課題もあります。
比較的小さい企業の中には、1人一台のパソコンや社員一人一人にメールアドレスが用意されていないこともあります。その場合は、電子化に必要な端末やシステム、セキュリティソフトの購入、インターネット環境の整備などが必要となります。紙の資料を電子化するためのリソースの確保も必要です。初期費用や電子化のための社員の工数を考えると、コストに見合わず導入を見送るケースもあるようです。
新しいツールの導入や、ワークフローの変更など、今までの作業工程ががらりと変わるため、事前に社員の理解や協力を得る努力が必要です。IT機器に強くない社員にとっては、パソコンなどの画面で作業することで、作業効率が悪くなることもあるでしょう。事前に研修を行い、メリットや効果を丁寧に伝えることが大切です。
導入時はある程度の初期投資が必要ですし、新しいやり方に慣れるまでは時間も労力もかかるでしょう。ただ、それでもペーパーレス化のメリットは少なくありません。ペーパーレス化による業務効率化やコスト削減効果を検証して、今後の方針を決定しましょう。一気に進めようとせず、試験的にシステムやワークフローを導入し、段階を踏みながら進めるのもおすすめです。
それでは、社内でペーパーレス化を進めるためには具体的にどうすればよいのでしょうか。ポイントを整理してみましょう。
とかく忘れがちなのは、意識改革です。社内の書類のペーパーレス化は単に紙を電子データに置き換えることではなく、書類の作り方もペーパーレス化を意識したものでなければ実効性が上がりません。会議では紙の資料を配布せず、電子データを使って行い、議事録も会議中に電子データで記録する、といったことが当たり前のように行われる意識を、全社的に展開することが必要です。
どの書類をペーパーレス化し、どの書類を紙で残すのかを整理することが重要です。まずは帳票や議事録、稟議書といった社内の「報告証書」の電子化から検討してみましょう。
会議の資料などは印刷せずにデータで配布する、帳票を電子化するなど、社内で管理している資料全体を選定し、どれくらい費用対効果や業務効率化が見込めるかを情報システムの部署と現場の両方で検討することが重要です。
紙で残す書類については、保管ルールについても確認しましょう。その際、まずは紙をなくした場合にどういった不具合が生じるかという観点で問題点を洗い出し、フローを見直して、不要な工程は削除するくらいのつもりで対応してもよいかもしれません。
コロナ禍でテレワークが推進される中、電子契約システムを取り入れる企業が増加しています。場所と時間を問わず業務を遂行できることはもちろん、印刷代・郵送費・印紙代・人件費といったコストの削減が可能です。さらに、見積もりから請求書作成までオンラインで行えるため業務のスピードアップも望めます。誰がどのような契約をしているか、どのような請求書を提出したかなど、リアルタイムで確認できるので「いつ決裁したのか」「今書類がどこで止まっているか」など業務プロセスの検証も可能になります。
システムの初期の導入コストはかかりますが、メリットが多いため、検討する余地は十分あるでしょう。
Q&Aでわかる電子契約・電子取引 第2回「電子契約システムの失敗しない選び方」
ペーパーレス化を進めると、社内規程の改変も必要になります。ペーパーレス化に関わる規程には下記のようなものがあります。
社内外の書類の伝達、保管、保存、廃棄といった管理全般について、ルールを明確化したものです。ペーパーレス化を進めるためには、全社的に電子データも含めて書類の取り扱い方法を統一化することが大切です。電子契約などを取り入れてない場合は、基本的に紙の書類の取り扱い方法のみ記載されているため、電子化した際は、電子文書の取り扱い方法についても記載する必要があります。
【追加するおもな項目】
・電子契約で締結した場合の契約書データの保管について
・電子契約文書の保管期限について
・電子契約文書へのアクセス権限や閲覧申請について
・電子契約文書の廃棄のルール
押印と印章管理についての規程です。通常は紙の契約書への押印について定められているので、電子署名のルールを追加する必要があります。簡単な方法としては、「文書に対する押印」という文章を、「文書(電磁的記録を含む。)に対する記名押印又は電子署名」のように書き換えるのが、簡単な方法です。
ただし、内部統制上のリスク軽減などを考えると、電子署名について具体的に定めた「電子署名管理規程」を作成しておくのがおすすめです。
電子署名を導入する場合は、電子署名のルールを定める必要があります。電子署名は印鑑のような物理的なものは存在しません。電子署名の権限をどのアカウントに付与するのか、多要素・多段階認証などの認証関係の管理責任者などを規程にしっかりと明記する必要があります。
【記載するおもな項目】
・目的
・定義
・電子署名の制定・改廃の手続き
・電子署名の種類(必要に応じて署名に用いる秘密鍵の管理)
・登録手続
・電子署名を行う権限の付与・廃止の手順
・電子署名管理責任者や管理代行者の定め
・認証情報の漏えい等の場合の対応
電子署名を導入する場合は、「職務権限規程」や「決裁権限規程」で決裁者の範囲などの見直しも必要となる場合もあります。電子データを紙媒体と同様に取扱うことに伴って、「情報セキュリティ規程」も見直し、電子データの漏洩対策やテレワーク時のセキュリティソフト対応なども検討が必要でしょう。
規程を作成したあとは、マニュアル作りも大切です。ペーパーレス化をすることで逆に業務の効率が悪くなっては本末転倒です。どの社員も同じように運用できるように、わかりやすいマニュアルを作成しましょう。
ペーパーレス化は、業務のスピードアップ、コスト削減、セキュリティ強化などさまざまなメリットがあります。電子取引や電子契約の需要が増える中、取引先ごとに柔軟に対応する必要性も出てきました。単に紙を電子化したり、ツールを導入したりするだけでなく、これを機に社員の意識改革や社内ガバナンスの強化を図り、社内稟議や決裁のフローなど、業務の流れ全体を見直すことが重要です。社内文書の管理システムや電子契約システム、ワークフローシステムなど、全て一元管理できるようなサービスを検討するのもよいでしょう。まずは、社員一人一人への理解を深めてもらい、会社全体で段階的に取り組んでいきましょう。
社内のペーパーレス化を推進するなら、社内文書だけでなく、社外との取引文書まで管理できる便利なツールの導入を検討してみましょう。
今まで紙で管理していたさまざまな書類をデジタル化すれば、業務効率化、コストカット、コンプライアンスの強化など多くのメリットを享受できます。
ここでは、日鉄日立システムエンジニアリング株式会社(以下NHS)が開発した『Paples(パピレス)』と『DocYou(ドックユー)』をご紹介します。
『Paples』は、「帳票作成・帳票出力・電子保存」をワンパッケージで管理できる統合電子帳票基盤です。
帳票作成ツールPaplesReportsデザイナーを用いることで、新規の帳票も簡単に作成可能。もちろん、ExcelやWordなどのレイアウトをそのまま取り込むこともできます。
作成した帳票は、最寄りのプリンタから出力するほか、PDFとして生成したり、FAXで送信したり、多拠点で分散印刷するなどの多様な出力機能もあります。
サーバー内に保存された帳票は、保管期間、閲覧・操作権限、仕分けなどの設定もでき、文書管理業務がさらにスムーズに。
さらにPaplesは電子帳簿保存法の適用要件を満たしており、JIIMAの認証も取得しています。令和3年度の税制改正を機に電子帳簿保存法へ適用したいとお考えの企業様にも適した製品となっています。
電子帳簿保存法に対応するためには、日々の様々な帳簿関連業務を見直す必要がありますが、NHSなら上級文書情報管理士の資格を持つ専任システムコンサルタントがコンサルティングサービスを提供しています。さらには提携している税理士の支援もありますので、安心してご相談ください。
統合電子帳票システム『Paples(パピレス)』ペーパーレス化の最新事例
『DocYou(ドックユー)』は、企業間取引における多様な書類の統合管理を実現するクラウドサービスです。
企業間では基本契約の締結・見積書の送信・納品書への同意など、さまざまな書類を用いた取引が日々行われています。電子契約・電子取引・書類配信の機能を持つDocYouは、書類ごとに必要とされるプロセス・管理パターンを広くカバーしているため、さまざまなサービスを使い分けることなく統合管理が可能です。
さらにドキュメント管理を併用することで、DocYou以外で送受信したメールや紙書類の他、別システムで送受信した書類や社内文書まで、各種ドキュメントを元管理することができます。
30年以上様々な業務システムを構築してきた実績を持つNHSだからこそ提供できる、セキュアなクラウドサービスDocYouでは、さらに柔軟なカスタマイズや多彩な導入支援サービスもご用意しております。
電子取引プラットフォーム『DocYou(ドックユー)』ペーパーレス化の最新事例
統合電子帳票基盤の『Paples』と企業間取引を中心とした多様な書類の統合管理を実現するクラウドサービス『DocYou』はシステム連携が可能です。
すでに『Paples』を導入済みの場合は、『DocYou連携オプション』のお申し込みで『DocYou』を簡単に追加して連携できます。
連携させることで、既存の各種社内帳票から他社との契約書まで、社内外の書類を一括管理することが可能になります。
その他、基幹システムを始めとしたさまざまな上位システムや各種サービスともシームレスに連携可能です。
「ペーパーレス化」のために知っておきたい
電子契約や電子帳簿保存法の概要についてはこちら
※本記事は2021/10時点の情報です。