監修:日鉄日立システムソリューションズ株式会社
DXソリューション事業本部 産業流通ソリューション事業部
デジタルドキュメントソリューション部
上級文書情報管理士・文書情報マネージャー 梅原 淳
電子帳簿保存法(略称:電帳法)とは
電子帳簿保存法は、税務関係の帳簿や書類を電子データで保存するためのルールなどを定めた法律です。1998年から現在までに、複数回の改正が行われています。
この法律は、企業のペーパーレス化を促進し、帳簿の管理と保存に関する効率性と安全性を高めることを目的としています。電子帳簿保存法の下で、企業は紙の文書をスキャンして電子化文書に変換したり、最初から電子形式でデータを作成・保存したりすることが許可されています。しかし、これを実施するには、特定の要件を満たし、必要な手続きに従う必要があります。
特に、電子帳簿保存法では、2022年1月からの改正および2023年の宥恕措置の終了をもってEDI取引を含む電子取引を行うすべての企業・個人事業主にデータ保存が義務化されています。EDIで取引データをやり取りした場合、紙で出力しての保存が法人税や所得税では認められなくなりました。
本記事では、
・「電子帳簿保存法」「EDI取引」とはそもそも何なのか?
・電子帳簿保存法の改正に伴うEDIへの影響
・EDI取引の保存方法【電子取引の4要件】
・EDI取引データを保存する際の注意事項
についてご案内をいたします。
電子帳簿保存法の背景
情報技術の進歩とデジタル化の推進により、企業は経営の効率化やコスト削減を目指しています。紙の帳簿や書類はスペースを取り、管理にも時間とコストがかかります。
電子帳簿保存法は、このような課題に対応するため、企業が電磁的な方法で国税関係帳簿・書類情報を管理・保存するためのルールを定めた法律です。
電子帳簿保存法の要件まとめ
電子帳簿保存法には、電子データの作成、保存に関する具体的なルールが定められています。
<例>
・紙の書類をスキャンして電子化する場合、原本の情報が正確に電子化されるよう、見読性を確保した解像度でのスキャンが必要。
・電子データの改ざん防止、検索性の確保など、データの真実性と可視性を保つための措置が必要。
・・・など
電子帳簿保存法では、これらの要件を満たすことで、紙の書類と同様の保存義務を電子データに与えています。
EDI取引とは
EDI取引(Electronic Data Interchange、電子データ交換)は、企業間で注文書、請求書、配送通知などの商業文書を電子的に交換する仕組みです。
従来の紙ベースの文書処理作業に比べ、データの入力ミスを減らし、処理速度を高め、コストを削減することができるため、多くの企業間取引に採用されています。
EDI取引の傾向は、データ形式が流通BMSフォーマット・全銀フォーマット・Peppolフォーマットなど標準化されている点にあります。この標準化により、異なる企業や異なるシステム間でも、スムーズに情報のやり取りが可能になります。
例えば、ある企業の注文管理システムから直接、サプライヤーの受注管理システムへ注文情報を送信することができます。これにより、情報の伝達が迅速に行われ、在庫管理や生産計画の精度が向上します。
EDI取引を利用することで得られるメリットは多岐にわたります。
メリット①業務効率の向上
紙の文書を扱う際には避けられない人的ミスや、文書の郵送にかかる時間とコストが削減されます。また、即時性が高まることで、企業間のコミュニケーションがよりタイムリーになり、生産性の向上に寄与するとともに、ジャストインタイムの納品(かんばん方式)による余剰在庫の削減など、企業の資金繰りにも大きく貢献します。
メリット②環境に優しい
紙の使用量を大幅に減らすことができ、企業の環境負荷を低減させる効果があります。これは、SDGsを意識した環境経営を重視する企業にとって、重要なポイントとなるでしょう。
しかし、EDI取引を導入するには、初期投資が必要になることがあります。
EDIシステムの構築や、取引先とのデータ形式の調整、CSV・テキストファイルなどの生データのままの保存であると電子帳簿保存法で義務付けられている明瞭性の確保ができないなど、導入初期には技術的な課題や法令の正しい理解のための学習などコストが発生する可能性があります。但し、長期的に見れば、その効率性とコスト削減効果は、初期投資を上回る価値をもたらします。
今日では、クラウドベースのEDIサービスも普及しており、小規模な企業でも容易にEDI取引を開始できるようになっています。これにより、ビジネスの規模に関わらず、多くの企業がEDIのメリットを享受できるようになりました。
結果として、EDI取引は現代のビジネスコミュニケーションにおいて、不可欠な要素となっています。
電子帳簿保存法の全区分に対応するなら:「Paples(パピレス)」
「Paples」は、企業内の様々な帳票を作成・生成・保存できる統合帳票基盤です。電子帳簿保存法の4区分、帳簿・書類・電子取引・スキャナ保存に対応しており、JIIMA認証も取得済。
Webインターフェースを通じて簡潔かつ、法的要件を満たして国税関係帳簿・書類に関連する様々なデータを一元管理できる機能を提供します。
SAPシステムやGRANDITなど、様々なERPとの連携も可能で、簡易ワークフロー機能も備えていますので、適法性を保ちながら基幹システムのデータの利活用を促進することが実現できます。
国税関係帳簿・書類や社内文書の統制・管理に関する課題、Paplesを用いたDXにより解決しませんか。
電子取引をさらに効率化するなら「DocYou(ドックユー)」
「DocYou」は、電子契約・電子取引・書類配信・ドキュメント管理を可能にするクラウドベースの企業間取引プラットフォームであり、Webインターフェースを通じて取引先と簡潔に契約締結や取引などのプロセスを完結できる機能を提供します。
DocYouでは電子取引についてのJIIMA認証を取得しています。
国税関係帳簿・書類の保存は「Paples」、電子契約・電子取引・書類配信・ドキュメント管理は企業間取引プラットフォームとしての「DocYou」を導入すれば、企業内全般のドキュメントの一元管理が実践できます。
電子帳簿保存法の改正に伴うEDIへの影響
電子帳簿保存法の改正では、企業が電子取引データについて要件を満たして保存することが義務付けられ、管理する方法に大きな影響を及ぼします。
この改正は、EDI(Electronic Data Interchange、電子データ交換)を利用する企業にとっても重要です。EDIは、企業間での注文書、請求書、納品書などの取引関係書類を電子的に交換するシステムであり、電帳法改正により、その取り扱いに新たな要件が設けられました。
改正電帳法は、電子記録の保存に関して基準を設けることで、電子取引の真実性と可視性を高めることを目指しています。これにより、EDIを使用する企業は、電子データの保存方法や期間、見読性やセキュリティ対策など、いくつかの点で対応が必要となります。
サマリ
電帳法の改正は、EDI取引を行う企業にとって、データ管理とセキュリティ対策の両面で大きな変化をもたらします。これらの変更に対応することで、企業は取引の信頼性を高め、経営の透明性を向上させることができます。
しかし、これには初期投資と継続的なシステム管理が伴うため、企業は改正法の要件を慎重に検討し、適切な対策を講じる必要があります。
詳細
①データ保存の必須化:
改正電帳法では、電子取引データの保存に関する基準が変更されています。これにより、企業は取引データをより安全に、かつ長期間保存するためのシステムを整備する必要があります。また、データの整合性と不変性を担保する措置が求められるため、EDIシステムのアップグレードが必要となる場合があります。
②文書管理プロセスの見直し:
電子データとしての請求書や契約書などの取り扱いに関するルールが明確化されたため、企業はこれらの文書の管理プロセスを見直し、法的要件を満たすシステムを構築する必要があります。
③国税当局への対応の変化:
企業は、国税当局からの求めへの対応がスムーズに行われるよう、電子取引データに対して適切に検索項目などのインデックスを付し、要件を満たした検索、閲覧できるようにする必要があります。これには、適切なデータの管理や検索機能の強化が求められます。
また、改正電子帳簿保存法では、取引年月日・取引金額・取引先での検索ができない、取引年月日や取引金額の範囲指定検索ができない、2項目以上の組み合わせ検索ができない場合には、税務職員による質問調査権に基づく電子取引データのダウンロードの求めに応じる必要が生じます。
④セキュリティとプライバシーの強化:
電子データの保護に関する規制も強化されています。企業は、取引データのセキュリティを確保するために、データ暗号化、アクセス制御、データ漏洩対策など、より高度なセキュリティ対策を講じる必要があります。ただ、国税当局からの求めによるデータの提示や提出の際には、暗号化されたままでは明瞭性に欠くために対策を講じる必要があります。
EDI取引の保存方法【電子取引の4要件の概要】
電子データ交換(EDI)取引は、企業間での取引において、注文書、請求書、納品書などの文書を電子的に送受信することを指します。EDI取引の保存方法には、電子帳簿保存法(電帳法)にて、4つの要件があります。これらは、取引記録の真実性、可視性を保証し、適切な電子取引環境を維持するために必要な措置です。
①システム概要を記した関連書類の備付け【真実性の確保】
電帳法においては、EDI取引を行う際に使用するシステムの概要や運用方法を記載した関連書類を準備し、備え付けることが求められます。これには、システムの設計書、データ項目一覧表、運用手順書、セキュリティポリシーなどが含まれます。これらの文書は、EDI取引が適切に管理され、取引記録の真実性が保たれていることを確認するための重要な資料となります。
②改ざん防止措置【真実性の確保】
電子取引データの保存では、改ざん防止策として下記4つのうちいずれかの措置をとる必要があります。
・タイムスタンプが付与されたデータを送受信する
・送受信したデータにタイムスタンプを付与する
・履歴が残るシステム又は訂正削除ができないシステムでデータを授受・保存する
・改ざん防止に関する事務処理規程を作成し運用する
③見読可能装置の備付け【可視性の確保】
電帳法では、保存された電子取引データをいつでも確認できるよう、見読可能装置の備付けが義務付けられています。これにより、取引データの可視性が確保され、必要に応じてデータを閲覧、検証することが可能になります。見読可能装置とは、具体的にはデータを表示するためのディスプレイやプリンタなどが該当します。
④検索機能の確保【可視性の確保】
保存された取引データは、効率的に検索できるよう適切な検索機能を備える必要があります。これは、必要な取引記録を迅速に見つけ出すために不可欠であり、税務調査時などや内部検証の際に取引の詳細を正確に確認できるようにするためです。
検索機能は、以下の要件となります。
①取引年月日、取引先、取引金額での検索
②取引年月日と取引金額は範囲を指定しての検索
③①の検索項目のうち2項目以上を組み合わせての検索
④基準期間の売上高が5千万円以下の場合は①~③の要件は不要
⑤①~③の検索要件が満たせない場合、税務職員による質問調査権に基づく電子取引データのダウンロードの求めに応じた上で、電子取引データを印刷して、取引年月日及び取引先ごとに整理された状態で提示・提出できるようにすること
以上の要件からも、電子取引データはいかなる場合でも電子保存をすることが必須という事になります。
これらの要件は、電子取引の信頼性を確保し、法的な義務を遵守する上で極めて重要です。企業はこれらの要件を満たすことで、電帳法の規定に対応し、取引記録の恣意性の排除とアクセス性を高めることができます。
さらに、これらの措置は企業が電子取引データを効率的に管理し、必要に応じて迅速に情報を提供できるようにするためにも役立ちます。
EDI取引データを保存する際の注意事項
EDI取引データの保存に関する注意事項は、電子取引の信頼性とセキュリティを確保するために極めて重要です。企業がEDI取引データを管理し保存する際に考慮すべき主要なポイントは、「データの暗号化」、「恣意性の排除」、そして「マスターデータへの参照」の三点です。これらのポイントを適切に管理することで、取引データの真実性、および可視性を保証することができます。
暗号化前(送信者側)又は復号化(受信者側)したデータの保存が必要
EDI取引においては、送信されるデータは暗号化されてセキュリティを保たれることが一般的です。しかし、法的な明瞭性の確保の必要性から、送信前の原データや受信後の復号化データを保存することが求められます。これにより、取引の透明性を確保し、取引の正確性を後から検証できるようになります。暗号化前のデータを保存する際には、そのデータが第三者によって不正にアクセスされることがないよう、適切なセキュリティ措置を講じる必要があります。
改ざん防止措置の必要性
取引プロセス中に発生する可能性のある訂正や加除作業は、取引データの真実性に直接影響します。法的要件により、改ざん防止の観点から不正な訂正削除の排除が必要です。
マスターデータへの参照
マスターデータとは、取引関連の基本的な情報(例えば、商品情報、顧客情報、単価情報など)を保持するデータであり、EDI取引データの正確性と一貫性を保証する上で不可欠です。取引データを保存する際には、これらのマスターデータへの参照データを確実に保持することが重要です。これにより、取引データの法的保存義務のある明瞭性が確保され、正確な取引処理が担保されます。マスターデータの変更があった場合には、それが取引データにどのように影響を与えるかを確認し、必要に応じて取引データを更新するプロセスが確立されていることが重要です。
これらの注意事項は、EDI取引データの管理において中心的な役割を果たします。取引データの正確性、明瞭性、およびセキュリティを保証することは、企業の信頼性を高め、取引関係を強化する上で不可欠です。
適切なデータ管理とセキュリティ対策を実施することで、企業はこれらの要件を満たし、効率的かつ安全な取引環境を確保することができます。
「Paples」&「DocYou」の導入により、企業の業務効率化とコンプライアンスの強化を達成
従来、紙ベースでの契約書類の管理は、物理的な郵送やデータ入力を再度行うことで、管理上の煩雑さといったリスクを増大させていました。
紙を用いた帳簿保存や取引関係書類の授受から脱却するにはシステム導入による電子化が効果的です。
ペーパーレス化を実施することで、業務効率化が図れ、DXが実現できます。
日鉄日立システムソリューションズ株式会社は、帳票電子化・帳簿の電子化・取引の電子化のため、「Paples」と「DocYou」という2つのシステムを提供しています。
「Paples」は企業内の書類管理業務を大幅に効率化できる統合電子帳票基盤。
帳簿データの保管、帳簿関連書類の管理、スキャナ保存した証跡の管理、電子取引データの管理まで、社内の様々な帳簿及び帳簿関連書類について、電子帳簿保存法に則った適切な保管・運用が可能です。
社内の書類についても、紙での運用から脱却したい、様々なシステムの帳票をもっと自由にしたい、適法性も保ちたい、そういった要望に応える機能を多数備えています。
さらに取引先や関係会社との間の書類管理も効率化したいなら、「DocYou」。
電子契約および電子取引、書類配信、ドキュメント管理を可能にするクラウドベースのプラットフォームであり、Webインターフェースを通じて簡潔に契約の成立の真正性を担保しつつ契約締結プロセスを完結できる機能を提供します。このサービスは、契約書類の印刷や郵送に係る時間およびコストの削減に寄与します。
「DocYou」はさらに会社間の取引を効率化するドキュメント管理機能を備えており、電子メールに添付されたPDFファイルや他サービスを通じて締結された書類、社内決裁文書を含む各種ドキュメントを一元的に管理することができます。これにより、紙の原本の紛失、破損、劣化、または改ざんといったリスクを排除し、企業のコンプライアンス基準を高めることが可能となります。
様々な取引関係書類の種類・通信方法・ファイル形式・取引先の都合などにより、電帳法改正後の保存先が分散化してしまい、逆に業務負荷が増えてしまう、といった課題を抱えてしまった場合の対応にも最適なシステム化を提供することができます。
法的要件を満たすための場当たり的なシステム対応は決して効率的ではありません。今回の法改正をトリガーに会社全体のドキュメント全般の一元管理の実践について、これを機会に検討されてはいかがでしょうか。
※本記事は2024/7時点の情報です。