電子帳簿保存法の改正に伴う宥恕期間が、2023年12月31日で終了します。対応が間に合わない事業者に対して新たな猶予措置は設けられたものの、国としてデジタル化に対応した業務体制を目指すという方向性に変わりはありません。そこで、電帳法改正の背景や、企業が認識しておくべき本質について、国税OBの税理士・袖山喜久造さんに聞きました。
監修者プロフィール
袖山喜久造(そでやま きくぞう)さん
税理士/SKJ総合税理士事務所所長
中央大学商学部会計学科卒業。東京国税局に国税専門官として採用。東京国税局調査部、国税庁調査課を含め、大企業の法人税調査を15年間担当。2009年から情報技術専門官として電子帳簿保存法を担当し、申請書審査、研修、企業の指導相談に携わる。2012年に退職後、同年SKJ総合税理士事務所を開業。税務コンサルティングのほか、企業の文書電子化コンサルティングを行っている。著書に「<電子帳簿保存法対応>電子化実践マニュアル(令和4年度改正版)」「電子インボイス 業務デジタル化のポイント」など。
電子帳簿保存法改正の背景
電子帳簿保存法は、1998年7月に国税関係帳簿書類の保存方法等の特例法として施行されました。当初は、税法で保存義務が規定される帳簿書類について、作成されたデータを保存するための手続きや保存要件等が規定されていましたが、2005年4月のe-文書法の施行とともに、取引相手から受領する書類についてもスキャナ保存が導入されました。ただ、スキャナ保存のための要件が非常に厳しかったため、導入する企業は少なく、デジタル化の遅れにもつながりました。
その後、経団連や各業界団体からの規制緩和要望もあり、令和3年度の改正でデジタル化を阻害していた要件が大幅に緩和。令和5年度の改正では、さらに運用しやすいよう要件変更が行われました。しかし、改正電帳法に準拠するための課題は、帳簿・書類・スキャナ保存に関しては納税者側の電子化を任意で決定できるのに対して、電子取引保存は原則電帳法の要件を満たしたすべてのデータの保存が義務付けられるという点です。
国が電帳法によりデジタル化を推進する背景には、大きく2つの目的があります。
①デジタル化による効率化・生産性の向上
これは周知の事実であると思いますが、まずは、デジタルデータを活用して業務効率や生産性を向上させることが大きな目的です。
従来は、パソコンで作成した取引データを紙に出力して郵便やFAXで送り、受け取った側はまたパソコンに入力するという工程でした。デジタルをアナログにして、またデジタルに変換するということを繰り返していたわけです。これをデジタルデータのままやり取りすれば、日本全体として大きく生産性が上がるはずです。
②透明性のある会計処理を実現する
次に、データによって業務管理することで、透明性のある会計処理が可能になるということです。
例えば、社内の承認を書面で行っていた場合、承認者のハンコがたくさん押してあったとしても、「本当にその人が、そのタイミングで承認したか」ということを証明するのは困難です。これをシステムで管理すると、誰がいつ承認したかというフローが明確になります。
また、近年めざましく普及しているAI-OCRによる伝票入力やRPAを活用することで、業務を効率化しながらミスをチェックする機能を持たせることもできます。
つまり、デジタル化を進めることで、まずは会社内で業務効率化を図って生産性を上げること。そして、その業務が適正に行われる体制を作り、「会社のガバナンスを強化しましょう」ということが、電帳法の真の目的です。
なぜ電帳法は「面倒くさい」のか?
電子取引データの電帳法への対応は、自社でどんな電子取引が行われ、それぞれどんな書類を発行・受領しているのかを調査し、それらをどう管理するか決めていかなければいけません。今まさに対応中の担当者もいると思いますが、企業や担当者からしてみれば、電帳法の改正に対応することは非常に「面倒くさい」ものだと思います。
税務調査では調査対象となる取引については、取引先との間で授受される取引書類の確認が行われます。取引書類は書面(紙)であれば紙の保存、データであればデータ保存が必要となります。青色申告であればこれらの厳格な保存が承認の要件となっているわけです。書面書類をデータで保存する場合のスキャナ保存やデータで授受する場合の電子取引データの保存では、データ改ざん等を防止するための要件が定められています。これまではこの要件がデジタル化を阻害し、グローバルの観点からは日本のDXが遅れる要因となったとも言えます。令和3年度、令和5年度の電帳法改正でスキャンデータや電子取引データなどの保存要件が緩和されたのは、こういった背景を踏まえたものです。
そして、保存要件が緩和された一方で、データ改ざんによって不正計上された場合の罰則は強化されました。法人税等の調査により重加算税が課される場合、税率は追徴税額に対し35%(又は45%)ですが、電子データの隠蔽や改ざんなどの不正があった場合は、税率はさらに10%加重され、45%(又は55%)の重加算税が課せられます。
これまでより重い罰則を課すことによって、適正な取引書類の保存を担保するようにしたということです。
電子帳簿保存法改正の本質と企業が持つべき姿勢
先に述べたように、電帳法の本質は、デジタル化により適正な会計処理が効率的に行われる体制を作ることで、会社のガバナンスを強化することです。
つまり、企業側は電帳法の要件を満たすことがゴールではありません。目指すべきは、「きちんとした取引書類をもらい、それに基づいて適正な会計処理を行い、正しい帳簿を作り、信頼性のある決算書を作成すること」。
紙であってもデータであっても、その書類が正しいもので、適切な処理基準に基づいて処理をされているかどうかが、問われるべきポイントなのです。
電帳法における検索機能の確保などは、税務調査を想定したものだということもあり、どうしても税務調査対策に目が行きがちになります。しかし、取引書類というのは、税務調査のみのために保存しているわけではなく、取引の事実を証明するためのものであり、その書類に基づいて正しい帳簿を作成しその帳簿に基づいた正しい決算を行い、適正な税務申告を行うために保存するものです。
つまり、どういう手順で適正な帳簿を作成するかというプロセスがきちんと整備されていれば、そもそも税務調査を必要とする可能性は低いのです。電帳法の要件は、その帳簿を作成するプロセスが重視され、エビデンスとなる取引書類の保存の真実性をいかに担保するかの規定に過ぎません。電帳法の要件を満たしたシステムを利用すれば適正な帳簿が作成されるわけではなく、帳簿作成のプロセスこそが重要となります。
もちろん、法令を遵守して電帳法に対応することは必要です。しかし私は、そこにとらわれすぎるのも良くないと感じています。企業の規模や業態がさまざまある中で、すべての企業が同じように電帳法の規定をあてはめてデジタル化を進めることは、現実的ではないからです。
また、一つの企業に目を向けても、日々さまざまな電子取引が行われますから、それをすべて同じレベルで保存しようとすると、要件ばかりに目が行き、効率が悪くなり、運用に苦労する可能性が出てきます。
ですから、まずは2023年10月から始まるインボイス制度への対応に合わせて、特に重要な取引データである請求書や領収書まわりの管理から整備して、重要性の低いデータはファイルサーバーで保存するなど、できるところから始める。そして、ゆくゆくは業務全体のデジタル化を目指すという選択肢があっても良いと思っています。
ガバナンスのとれた企業体質を作ることができれば、効率的で生産性が高い経理業務ができ、税務調査において説明責任が果たせるようになります。
電帳法への対応を、企業の体制、業務プロセスを見直すきっかけにしてみると良いのではないでしょうか。
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さらに、令和5年度の電帳法改正に伴い、DocYouもスキャナ保存に対応できるようになる見込みです。
これまでも紙で受領した書類を電子化してドキュメント管理に保管することで一元管理することはできましたが、DocYouを活用することで、電帳法の要件に準拠した管理が効率的にできるようになります。
※本記事は2023/9時点の情報です。
まとめ
- 国がデジタル化を進める目的は、効率化・生産性の向上と透明性のある会計処理の実現
- 改正電帳法によりデータの保存要件が緩和された代わりに、不正があった場合の罰則規定が強化された
- 電帳法の本質は、適正な会計処理を効率的に行われる体制を作ることで、会社のガバナンスを強化すること